
私はアメリカの大学院に2年間留学し、在学中のサマーインターンを経てアメリカの企業に就職しました。就職後、解雇も経験しており、国外退去のリスクに直面しながらも、何とか現地に踏みとどまることが出来ました。こんな私ですが、自身の経験を皆さんにシェアできればと思います。
アメリカ合衆国政府の基本姿勢

アメリカに高い学費を払いに来てくれる(お金を落としてくれる)留学生は歓迎だけど、卒業後はアメリカ人の仕事を取らないでね、というものです。現地のテレビで、某アメリカ有名企業で安い給料の外国人が雇われ、彼らに仕事を手取り足取り教えていた高給のアメリカ人達が突然解雇になった、という話がドキュメンタリーになっていました。自分たちの仕事を奪うことになるとも知らず、外国人労働者に仕事を教えさせられたアメリカ人達は、会社側が人件費削減のためになりふり構わず振る舞い自分達の尊厳を傷つけた、と涙ながらに訴えていたわけですが、このように政治的な問題も孕んでいるため、就労ビザの申請は一筋縄にはいきません。
留学生は現地でビザサポートをしてくれる会社を探す必要があるのですが、ビザの申請をしても移民局の許可を得られるか不透明なこと、事務手続きや移民弁護士の費用が掛かることから、一般的にアメリカ企業は留学生の採用に消極的です。また、トランプ大統領がビザ制度の変更を指示しており、今後の先行きも不透明なことから、一部のアメリカ企業は外国人の採用を見送っています。実際、私が職探しをしている際、日本人ディレクターのご協力で選考が進んでいた会社でも、途中で人事部から横やりが入ったため採用見送りとなりました。ビザ移管の際に移民局から許可が出ないリスクがゼロでない、そのリスクを会社として取ることは出来ない、と人事部から説明を受けました。
トランプ大統領は、インド系のハイテク企業など一部の企業が就労ビザの制度を悪用し、賃金の安いITエンジニアをインドから大量に採用してアメリカ人の仕事を奪っていることを問題視しており、制度の変更を指示しています。以下トランプ大統領のツイートにもあるように、留学生が一般的に応募するH1Bという就労ビザ制度は、才能があり、高いスキルを持った人にアメリカに来て欲しいという趣旨のもと設計されていますので、学歴や専門性を持っていないと、就労ビザを取得するのは困難というのが現状です。

留学生はどのビザで現地就職する?
H1B(特殊技能ビザ)
大学の新卒以上を対象としたもので、アメリカ企業が外国人労働者を専門分野で雇用することが出来ます。有効期間は3年で、雇用者に延長の意思があれば最長6年、そこからグリーンカードへの切り替えも可能です。一部の例外を除き殆どの留学生がこのH1Bビザで現地就職しています。
現地のビザスポンサーを探す必要あり
ビザを取得するには、ビザスポンサーをしてくれるアメリカ企業を探さなくてはなりません。しかしながら、自分が働きたいと思っても、会社がビザスポンサーをしているかわからないので要確認です。一般的に、巨大テクノロジー企業はSTEM系やMBA選考の学生を大量採用しています。
過去にH1Bのスポンサーをした企業は、オンライン上に公開されていますので、H1B Data Baseなどで確認すると良いと思います。どういった職種で外国人を雇っているのか、彼ら・彼女らの基本給(ボーナス除く)はいくらかも記載されています。
特定の会社の個別申請の基本給や、申請が却下されたか否かの記載までも公開されています。個別案件まで公開されてしまうと、なんだかプライバシーを侵害されている気がしますが。。。
もちろん、本人の交渉次第で、過去にH1Bスポンサーをしていない企業から内定を勝ち取ることは不可能ではありません。私の場合、Linked-in経由でファンドマネジャーに連絡し、そこからサマーインターンの内定を貰い、インターン後にビザスポンサー付きの正規雇用の内定を貰いました。

ランダムな抽選で当選しなければ審査すらしてもらえない(涙)

H-1Bビザは、発行数が年間8万5000に限られています。学士号以上を保持する人が対象になる6万5000に加え、アメリカで修士号を取得した申請者向けに2万の枠が設定されています。
抽選は2回あります。2018年の公開情報を基にすると、学士号を持つ人の抽選確率は34%、修士号以上の学位を持つ人の抽選確率は、推定56%となります。
- 1回目。応募者全員が対象。2018年4月期の公開情報によれば、65,000の枠に対し190,098件の応募があったため、 当選確率は34%。
- 2回目。1回目の抽選で落選した人の中から、修士号以上の学位を持っている人のみを対象に再度抽選。対象は95,885件。ここから1回目の抽選で当選した人を除いた数が、2回目の抽選にかけられる。
- 2回目の抽選についての正確な数字は非公開。修士号以上の学位を持つ人のうち34%が一回目の抽選で当選し、64%に当たる61,366件が再抽選の対象となったと仮定すると、2回目の抽選倍率は約33%。
- 修士号以上の学位を持つ場合、両方とも落ちる確率は、(1 – 0.34)*(1 – 0.33) = 44.22%。従い、少なくとも1回当選する確率は、1- 0.4422 = 56%。
通常は4月1日から抽選開始で、枠が埋まり次第受付終了です。近年は、数日で枠が埋まります。それから1カ月ほどで、受理された申請書類の中から、審査対象を選ぶ抽選がコンピューターによって行われます。
ただし、政府・民間の研究機関といった非営利団体には、H1Bビザ発給枠の上限がなく、抽選を回避することが出来ます。従い、抽選漏れのリスクはありませんが、営利団体に転職する際には、再度抽選を受けなければなりませんので、転職の自由度があまりありません。
私は営利団体で働いており、既に抽選に選ばれているため、転職の際に再度抽選を受ける必要はありません。スポンサーだけ見つけることが出来れば、簡単に雇用者を変えることが出来ます。
抽選で当選したからといってビザが発給されるとは限らない
コンピューターによる抽選で当選した後は、審査があります。ビザ制度の趣旨としては、専門性や高いスキルを持つ才能をアメリカに受け入れるというもの。従い、最低学士号以上の学位と、専攻や経験が職務において活かされるものであるかという点が大事になってきます。
私の場合、アメリカの修士号保有、MBA専攻、米国証券アナリスト資格保有、バイリンガル、アジアでの職務経験、といったものが、内定先の業種や職務内容に完璧に一致していたため、問題なく審査を通過しましたが、トランプ政権になってから一番最初の年だったということで審査が遅れました。審査が前年より数か月遅く、最終的に承認が下りたのが年末でしたので、それまで国外にでることが出来ませんでした。
現在は政権の意向もあり、個別の申請ごとに要件を満たしているか、移民局に厳しく見られます。その地域、職種での平均的な給与との比較も行われ、給料が安いと、アメリカ人の仕事を奪う可能性の高い、チープな単純労働者ではないかと疑われるリスクがあります。また、過去に雇用者が外国人雇用の際の手続き等で問題を起こしている場合においても、申請が却下されることがあるようです。バックオフィスのしっかりした大手や、大手弁護士事務所に依頼をしている会社の方が、このような問題が起きにくいと思われます。
ビザ要件充足のための条件は、スポンサーとなる会社の業種、職務内容等によって異なるため、移民弁護士に相談することをお勧めします。例えば、日本文学専攻で、職務経験や資格なしに、現地の金融系の会社から内定を貰った場合、審査で落ちてしまうかもしれません。
そういった意味で、渡米前に、留学の目的意識を整理することが重要になります。現地就職に興味がある場合は、会社や職種の要件を理解し、どのような専門性やスキルを大学・大学院、インターンシップで身に着けるべきか、熟慮することをお勧めします。
次回は、「じゃあ、どうすればよいか」、についてお話したいと思います。