
前回の記事では、アメリカ政府の外国人留学生に対する基本姿勢や、留学生が現地就職をする上で必要となるビザについてお話ししました。本記事では、留学生が一般的に応募する就労ビザであるH1Bビザを念頭に、どうやったらビザ取得の確立が上がるのかお話ししたいと思います。
なお、アメリカの大学や大学院を卒業したばかりの人が現地就職をするという前提ですので、私の記事では以下ビザは想定していません。
- グリーンカード:永住権
- Lビザ:駐在員ビザ
- Eビザ:アメリカに投資するなどしている日系企業に発給
- Oビザ:科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で卓越した能力を有する人が対象
- その他短期滞在や、投資家向けのビザなど
前回説明した通り、普通の人がアメリカで就労ビザを取得するのは大変困難ですが、ビザの制度設計や背後にある考え方を理解し、事前に対策を取ることでビザを取得できる可能性はグッと上がりますので、今回はその話をしていきます。
【目次】
では、どうすればよいか
アメリカの留学生が現地就職するには、
- アメリカ人の人材が不足している分野に絞ること
- アメリカ企業が欲しがるような専門性やスキルを持っていること
- 大学や大学院の専攻が、応募している職種と一致していること
- 給与水準が低すぎないこと
- 書類の不備をなくすこと
が重要になります。
1.アメリカ人の人材が不足している分野に絞る
就労ビザであるH1Bは特殊技能ビザと呼ばれ、アメリカにとってメリットのある専門性や高いスキルを持った逸材を呼び寄せるという発想のもとに発給されています。
従い、アメリカで人材が不足している分野では、スポンサー企業が多く存在します。とりわけ、STEMと呼ばれる科学・テクノロジー・工学・数学分野を専攻する留学生には優遇措置があり、採用するアメリカ企業にとっても制約が少ないというメリットがあります。
例えば、卒業後OPTと呼ばれる企業研修制度を利用することで、他の分野を選考する学生よりも長く、最大3年間アメリカに滞在できます。STEMを選考すると、この3年間の間に就労ビザをスポンサーしてくれる企業を探すことができます。STEM以外を選考する学生は、OPTを利用しても1年間しか滞在できません。
アメリカの巨大テクノロジー企業などは、STEM系やMBAなどの留学生を積極的に採用しており、グリーンカード(永住権)をサポートしてくれる会社も多くあります。2008年の金融危機後、金融機関の採用数は激減しましたが、現在はそのマイナス分をGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)などの巨大テクノロジー企業が埋めて余りあるほど採用しています。
ただし、これらの企業へ応募する際は、ビザサポートの面で心配はありませんが、留学生が押し寄せるため競争が激しいのも事実です。
2.アメリカ企業が欲しがるような専門性やスキルを持っていること
私の場合は、米国証券アナリストの資格、アジア企業でのマネージャーの経験、日本語能力、MBAといったものが、投資ファンドのアナリストの要件と一致していました。
留学前に、自分の希望する会社や職種の具体的な応募要件について調査をし、在学中にどのようなスキルや経験を身に着けるべきか事前に熟慮することをお勧めします。できれば、その会社で働いている人や現場の採用マネージャーに聞くのが早いです。
希望の企業から内定を貰った後は、人事部や移民弁護士と上手く連絡を取りながら、募集要項と自分の専門性やスキルの一致について吟味し、申請書類を仕上げていくことになります。
入社後は専門性を生かして仕事をしているか、移民局からエビデンスの提出を求められることがあります。
3.大学や大学院の専攻が、応募している職種と一致していること
移民局の確認項目になっています。私のようにビジネススクールを卒業している場合は、コンサルや金融機関、事業会社のマーケティングや会計系の職種に就くことが多いです。一方、例えば日本文学専攻で未経験の状態であれば、仮に投資ファンドのアナリストとして内定を貰ったとしても、移民局の審査を通過できない可能性があります。その場合、最低限米国証券アナリストや米国公認会計士などの資格を有する、または、インターンシップでの経験を経るなどして、学位と職種の不一致をカバーすることが出来るかもしれません。
4.民間企業で給与が低すぎる職種は避ける
内定を貰った際に提示された年収を、ビザ申請の際に提出することが求められます。この給与水準が、Prevailing wage level 1と言って、エントリーレベルのアメリカ人人材に支払われる水準だと、審査で落ちるようです。
アメリカにとってメリットのある専門性や高いスキルを持った逸材を呼び寄せる制度ですので、専門性のある人材の給与は高くて然るべきだいうものです。
トランプ政権になってから、給与の最低水準を設けよう見たいな話しも出ているようです。
5.ビザ手続きで書類の不備を防ぐ
意外に思われるかもしれませんが、書類の不備で申請を却下されるケースもかなり多いようです。大手弁護士事務所や移民専門で実績のある弁護事務所にお願いし、会社の人事部とのコミュニケーションも密にとることをお勧めします。あまり人任せにしすぎないことが重要です。