
これまた前回ご紹介した本からの抜粋。人間は自分の持っているものを高く評価し、手放したくないと考える傾向にあります。それは失うことによる損失を強く意識しすぎてしまうのが一因とされています。
実験
クラスで半分の学生にマグカップを与えます。マグカップは持っていない学生に売ることが出来ます。マグカップはランダムに与えられるため、確率的に半分の学生は取引を試みるはずですが、多くの調査で、取引に応じる学生は10%程度にすぎないということがわかりました。買い手と売り手の提示する価格に大きな差があり、取引がなかなか成立しません。
実験では大学の売店で6ドルで売っているマグカップが使用されています。売り手の価格は平均で5.25ドル、買い手の価格は2.5ドル以下でした。マグカップのオーナーである学生は、マグカップを持っていない学生よりも2倍以上高い値段を相手に提示します。
また、買い手でもない・売り手でもない第三者も実験に参加させます。そうすることで、買い手と売り手の間に当然生じると思われる価格差は、どの程度のものなのかを測定できます。
具体的に、まず0.25ドルから9.25ドルの間で、売り手はいくらだったら売りたいか、買い手はいくらだったら買いたいか、そして第三者のグループは、買い手と売り手が示した値段だったら、買いたいのかか、売りたいのか調査します。
ここで重要なのは、第三者とマグカップの売り手の違いは、実際にモノをもっているかいないかだけということ。合理的な世界であれば、第三者と売り手との間で、提示価格に違いはないはずです。ところが、現実世界では、この第三者とマグカップの売り手が示す価格に差が生じます。
実験では、第三者の提示した価格は、買い手の価格よりも5割程度高くなりましたが、売り手の提示した価格は、買い手の価格より3倍も高いという結果が出ました。つまり、人間は実際にモノを所有すると価値判断が歪められ、 所有物を高く評価する傾向があるというものです。これは、投資家が一度買った株式をなかなか手放すことが出来ない原因の一つと言われています。