
今回は、私が独自にブルーンバーグの端末から引っ張ってきたデータをベースに簡単に検証してみたいと思います。
【目次】
1.日本市場は非効率と言われており、インデクスに勝てるチャンスがある?
多くの機関投資家の間では、日本の株式市場は非効率であることから、αを生み出し易い市場と言われています。2017年の日経新聞の記事によれば、日本株3600社のうち、4割以上の会社が証券会社にカバーされていません。一方、米国のラッセル3000でカバーされていない会社はたった5%です。また、日本市場でカバーされている会社の大半は大型株で、超小型株・中小型株は殆どカバーされておらず、証券会社から発行されているレポートの質も、大型株のものに劣ります。
安部政権になってから2016年頃までアナリストのカバレッジ数が増えましたが、2016年9月のプレビュー取材禁止(日本証券業協会による直近決算期の業績に関わる情報の取材や投資家などへの伝達の自粛を促すガイドライン )により、カバレッジ数が伸び悩んでいるといわれています。実務をしている私の実感としても、自粛期間を設けている会社が多く、決算前は取材を断られることも少なくありません。
また、Sussex Partnersによれば ヘッジファンドの預かり資産の市場に占める割合は、日本市場では0.5%程度ですが、米国市場では6%、欧州市場では8%もあります。同社は日本のヘッジファンドを海外で売り込んでいるため、これらの数字にはバイアスがかかっている可能性がありますが、バイアスがないとすれば、日本市場は競争の緩いブルーオーシャンとも言えそうです。 日本市場でヘッジファンドの数は、たったの80~120社で、そのうち半数の運用額はそれぞれ110億円未満。全部足しても運用額は2兆円~6兆円程度(定義による)にしかならないそうです。一方、資産運用の本場米国では、一社で何兆円も運用している巨艦ファンドがゴロゴロ存在しています。
日本では細々と市場の非効率を取っていくような戦略を取っているヘッジファンドが多く、中小型株に特化したファンドでは、220億円~440億円程度でファンドの新規募集を停止するケースが多いと言われています。先に述べた80~120社の中で、30~40社は現在新規受付を行っていないようです。
日本のヘッジファンドの特徴として、①ロングバイアスのロングショート、②ロックアップ条項、③ゼネラリスト、④ボトムアップ型のファンダメンタル分析、⑤ポジションが100~200と多い(保守的なリスクマネジメント)、⑥中小型株のリサーチ、⑦ワンマンショップ、⑧オペレーションのインフラが脆弱、といったもの挙げられます。
一見、巨大なファンドの方がイケていると思われがちですが、図体が大きくなればなるほど市場の歪みを見つけるのが困難になり、パフォーマンスが悪化することが知られています。各種調査では、運用資産が小規模で、若く、ロックアップ条項を設けているファンドの成績が良いことが明らかになっており、そういう意味では、日本のヘッジファンドのポジショニングは悪くないように思えます。
個人的に、ヘッジファンドのパフォーマンスが実際どうなのか気になったので、日本、欧州、米国のヘッジファンドとインデックスのパフォーマンスを比較してみようと思います。各市場でのヘッジファンドのパフォーマンスに、ユーリカヘッジのヘッジファンドインデックスのデータを使っているため、星の数ほどあるヘッジファンドの成績と乖離があるかもしれませんが、以下参考まで。
2.日本のヘッジファンドの成績は?
Eurekahedge Japan Hedge Fund Index(50ファンドの単純平均)とTOPIXのパフォーマンスの比較をすると、データ取得可能な2000年1月31日から2020年4月30日までで、ヘッジファンドは129%アウトパフォームしていることが分かります。また、2007年11月30日から2020年4月30日の期間でも、TOPIXを30%アウトパフォームしています。直近の5年間はTOPIXを若干アウトパフォームしています。
リーマンショック後の上げ相場でパフォーマンスが悪化していますが、 ヘッジファンドは空売りも組み合わせるため、強烈な上げ相場が長引くと当然ながらTOPIX対比アンダーパフォームする可能性があります。上げ相場も下げ相場も含む景気サイクルでみれば、 辛うじてTOPIXに打ち勝つことが出来ているということで、日本のヘッジファンドは健闘しているように見えます。ただ、高額の手数料はカバーできていなさそうです。



3.欧州のヘッジファンドの成績は?
一方、欧州のヘッジファンドも日本のヘッジファンドと同じく、リーマンショック前の成績が良く、リーマンショック後の成績が芳しくないというものになっています。ただ、日本のヘッジファンドよりもインデックス対比のパフォーマンスが悪いという特徴があります。
Eurekahedge European Hedge Fund Index(260ファンドの単純平均)とSTOXX🄬 Europe 600 Indexのパフォーマンスを比較すると、データ取得可能な2000年1月31日から2020年4月30日までの間、ヘッジファンドは99%アウトパフォームしていることが分かります。
一方、2007年11月30日から2020年4月30日の期間では、STOXX🄬 Europe 600 Indexを7%アンダーパフォームしており、直近の5年間はSTOXX🄬 Europe 600 Indexとほぼ同じリターンとなっていることが分かります。
インデックスに何とか食らいついているように見えますが、リーマンショック後は、強烈な上げ相場についていくことが出来ず、高額の手数料をカバー出来ていなさそうです。



4.米国のヘッジファンドの成績は?
米国のヘッジファンドの成績も似たようなパターンで、リーマンショック前が良く、リーマンショック後は芳しくないというものになっています。一方、大きな違いは、リーマンショック後のリターンの悪化が一番大きいという点。
Eurekahedge North American Hedge Fund Index(494ファンドの単純平均)とS&P500 Indexのパフォーマンスを比較すると、2000年1月31日から2020年4月30日の期間で、ヘッジファンドは217%アウトパフォームしていることが分かります。
一方、2009年3月31日から2020年4月30日の期間では48%、直近の5年間ではS&P500 Indexを40%アンダーパフォームしています。
米国の強烈な上げ相場では、ロングショートのパフォーマンスは相対的に見劣りしますので、単純比較するのはフェアではないかもれませんが、リーマンショック前ほどインデックスに食らいつけていません。



リーマンショック後の強烈な上げ相場を考慮しても、米国と欧州の市場でヘッジファンドインデックスは、市場についていくことが出来ていません。一方、日本のヘッジファンドは、アベノミクス以降の強烈な上げにも何とか食らいつき、比較的成績が良いものとなっています。
実務を通じて実感していますが、日本の超小型株、中小型株の市場には、アナリストが殆どカバーしていない、良い会社がゴロゴロ存在していますが、言語や分野の壁もあって、外国人投資家との競争はあまり存在しません。外国人投資家が通訳を挟んで会社に訪問したり、電話会議をすれば、日本人の2倍以上の時間をかけてしまうことになり、あまり情報を取れないでしょう。企業文化の理解も必要なため、コミュニケーションもスムーズにいくとは思えません。市場の非効率性を考慮すれば、中小型株中心に運用している日本のヘッジファンドが比較的良い成績を収めるのは、当然と言えば当然なのかもしれません。(※サンプリングやファクターリスクの議論もあるかと思いますが、ここではそこまで掘り下げません。)
5.投資信託はどうか?
少し古いですが、Contrarian Investment Strategiesという本に書かれている内容をご紹介したいと思います。本書は、かつてウォールストリートで逆張りマスターと呼ばれたDreman Value Managementの創業者兼ファンドマネジャーによって書かれたもの。最近はパフォーマンスが出なくなったようですが、90年代後半までは長きに渡り何千もの投資信託の中でトップパフォーマーに選出され続けました。現在では当てはまらない点も多く見受けられますが、バリュー投資家なら一度は読んでおきたい本ということで目を通してみました。
1970年代から盛んになってきた投資信託のファンドマネジャーの研究では、プロは市場に勝てないとされています。例えば、モーニングスター社とリッパー・アナリティカル・サービシズ社のデータを基にした1971年〜1991年の調査では、米国の投資信託はインデックス対比アンダーパフォーム、別の調査では、1987年〜1997年の間、投資信託は3年、5年、10年の全ての期間でアンダーパフォーム。リスク調整後のパフォーマンスも負けで、高い手数料を徴収しているマネジャーの成績も特に良いわけではありませんでした。現在もそうですが、殆どの自称プロと呼ばれる人達は、インデックスに勝てていません。
興味深いことに、 SEC(米国証券取引委員会)の調査で、 投資家の中でも特に機関投資家には、イベントに過剰反応、つまり人気銘柄に群がり、不人気な銘柄を売り込む傾向がありました。60年代〜80年代後半に天井で購入し、底で売っていたのは機関投資家だったということです。自称プロと呼ばれるファンド・マネジャーは、極めて感情的な売買をしており、パフォーマンスも最悪であったことが明らかになっています。
現在でも、殆どの投資信託がインデックスに勝てないことを考慮すると、個人投資家にとって、勝てるアクティブ投信、ファンドマネジャーを見抜くことは至難の業で、時間をかけても良いファンドを見つけることは困難でしょう。過去の成績が将来の成績を予測しないことは、各種調査で分かっており、定性調査が重要になってきますが、殆どの個人投資家は定性評価のノウハウを持っていません。また、個人投資家には良いヘッジファンドへのアクセスもありません。
従い、私は無駄な時間・エネルギーを消費するよりも、手数料の安いインデックス投資をお勧めします。こうすることで、労力も使わず大半のアクティブマネジャーよりはよい成績を残せると思います。