
私は、ファンダメンタルズ分析でなくPBRやPER重視の伝統的バリュー投資には否定的です。実際、アンダーパフォームしているファンドに共通する特徴して、単純に値段が安いダメな会社を買っているというものがあります。
例えば、前回ご紹介た本の著者は典型的なバリュー投資家で、市場平均に打ち勝つためにファンダメンタルズは役に立つとしているものの、過去のエビデンスをベースにすれば、その効果は限定的という立場を取っています。基本的なアプローチとして、投資先候補を低PER銘柄(下位40%)から絞り込んだ後、P/CF、PBR、P/Dなども併用しながら、以下指標を参考に銘柄を選定するというものです。
- 強固な財務:流動比率、負債比率、金利負担能力など。逆風が吹き荒れたときに耐えうる財務を持っているか、配当を維持することが出来るかを判断するために使う。
- オペレーションと財務の指標:良い指標が多ければ多いほど良い。会社に構造的な問題がないか確かめるために使う。
- 直近の利益の成長率がS&P500の平均よりも高いかどうか、近い将来成長率が急に落ち込む可能性がないかどうか。成長率の方向性を判断するだけに使う。
- 収支予想は、常に保守的な前提を置かなければならない。これは、安全余裕度(マージン・オブ・セーフティー)を担保するため。
- マーケット平均よりも高い配当利回りを維持でき、向上させることが出来ること。
私は、上記のアプローチには問題があり、長期的に超過リターンを上げることが難しいと思います。例えば、長期投資家にとって最も大事なビジネスモデルの堅牢性や、会社のオーナーである株主が投資からどれだけのリターンを期待できるかといった視点がありません。また、配当利回りは、投資家のリターンの源泉の一つで、配当が少なくても、内部留保した資金を事業の競争力強化に合理的に投資しているのであれば問題ありません。そういう意味では、配当だけでなく、経営者が会社の資金をどう使っているのか、今後どう使っていくのかといった点を総合的に加味した、キャピタルマネジメントの評価の方が大事になってくるでしょう。
また、資本効率の悪いリターンを上げられない会社については、明確な材料(カタリスト)がないと株価の割安感は解消されません。こういった視点がないと、単に安くてダメな会社に投資することになり、株価がいつまでたっても上がらないという「バリューの罠(バリュー・トラップ)」に陥る蓋然性が高く、多くの伝統的バリュー投資家がリターンを上げられない一因になっています。
巨額の研究開発費用や広告・マーケティング費用など、会社の将来のCFに大きな影響を与える無形資産の価値も伝統的なバリュー投資では見逃しがちです。 純資産価値などに目が行きがちな伝統的なバリュー投資家はこういった価値を適切に評価できないために、投資対象の銘柄が少なくなり、良い銘柄を見つけるチャンスが少なくなってしまいます。
近年は環境が変わってしまい、単純に安い銘柄に投資する手法は上手くいっていない
各種調査によれば、2000年代後半頃から単純な割安投資は機能していません。不人気の株式は、ビジネスモデルの持続可能性や成長性などに問題を抱えていることが多く、いつまでたっても割安に放置されているケースが多くみられます(バリュートラップ)。また、未曾有の低金利・世界的金融緩和や巨大テクノロジー企業・インデックス投資の台頭によって、以前は考えられなかったような高いバリュエーションで株価が取引される会社も多くみられるようにもなりました。グロース銘柄にとっては、低コストで成長をファイナンス出来るまたとない機会で、もしかしたらグロース投資がバリュー投資を大きくアウトパフォームしている要因の一つなのかもしれませんが、 曾有の低金利・世界的金融緩和やその他事象とバリュー投資の低迷に明確な関係性はまだ見出されていません(* Dimensional Fund Advisors が調査を行ったようですが)。バリュー投資がグロース投資に永遠に負けるとは思えないという話もよく聞きますが、この2つのパフォーマンスは2020年現在まだ縮まっていません。単にサイクルなのか、構造変化なのかという点では議論が分かれています。
一方で、単に安い株を買うだけではなく、企業のビジネスモデルの堅牢性、経営陣のキャピタルマネジメント、バランスシートのクオリティも重視したバリュー投資家は、必ずしもインデックス対比負けているわけではありませんので、現在はファンドマネジャーや運用チームの銘柄選別の腕が試されているとも言えそうです。また、物言う株主・アクティビストのように会社に変化をもたらすことでリターンを最大化していくといった投資家も存在します。日本には、過剰に現金を抱え資本効率の悪い企業・ガバナンスの悪い会社が割安に放置されていることが多く、アクティビストの格好の標的がゴロゴロしているという状態です。日本市場はまだまだ非効率と言われており、バリュー投資でもインデックスに打ち勝つチャンスがあるといわれています。