アナリストや経営陣による会社の業績予想は当てにならない?

What Traits Would You Need to Become a Data Analyst? | Charter College

以前ご紹介したの内容をご紹介します。私は、会社の業績予想に興味がありませんし、出来るとも思っていません。まっとうな投資とは、リターンを生むような良い会社にリーゾナブルな価格で投資することだと思いますが、現実には短期的な数当てゲームをしている非常に投機的な自称プロが多いように感じます。また、経営陣やセルサイドのアナリストは、業界やビジネスに対する深い知見を持っていますが、短期の業績予想というとまた話は変わってきます。

以下ご紹介する調査は少し古いですが、今でもあまり変わらないと思われます。最近の調査についてご存じの方は、内容をご紹介していただけると幸いです。

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1.アナリストによる四半期の業績予想は当てにならない

本書では、1973年から1996年までの間に証券会社のアナリストが行った94,251件の業績予測について触れてあります。調査対象は、少なくとも4人のアナリストがカバーしている1000社程度。結果、調査では、アナリストの業績予想と実績値の乖離の平均値は44%、中央値で42%ということが分かりました。一般的に±5%以上の乖離が大きな株価変動を引き起こすと考えられていることを考慮すれば、42%という誤差はかなり大きな数字です。

また、70年代には25%〜41%、80年代には35%〜52%、90年代には31%〜65%と、情報革命に伴いエラーが右肩上がりに大きくなりました。筆者がアナリストだった70年代前半にはオンラインは存在しなかったものの、90年代半ば頃には競合や見通し修正など様々な情報を瞬時に入手することが可能になりました。情報革命に伴い、業績予想の精度が上がると思いきや、逆に落ちてしまったという興味深い結果が示されています。

2.アナリストや経営陣による業績予想の誤差

1973年から1996年までの間に証券会社のアナリストが行った94,251件の業績予想を調査した結果、実績との誤差が±5%以内だったものは29.4%、±10%以内だったものは46.8%、±15%以内だったものは58.3%でした。

業界・業種別の予測精度に大きな違いはなく、安定的と見なされている製薬会社やコンピューター系企業の業績予想も当てにならないものでした。

また、1960年から1976年までの間を対象にした7つの調査によれば、業績予想の誤差の平均値は16.6%で、統計的な外れ値を外しても結果は変わりませんでした。別の調査では1972年から1976年までの業績予想の誤差が26.6%で、こちらでも見通しが立て易いと言われているコンピューターや小売店の誤差が88.8%で最悪だったということがわかりました。

1963年から1971年まで間に経営陣が示した業績予想を対象にした4つの調査によれば、予想の誤差の平均値は14.5%でした。

3.景気の波に関係なく、一貫して楽観的なアナリストの業績予想

人間には楽観的なバイアスがかかっています。人間は将来について非現実的なまでに楽観的で、自分自身に対する評価も高く、置かれた状況もコントロール出来ると思い込んでいます。例えば、人間はユーモアのセンスや運転の技術について自己評価すると、中央値より高く評価することが研究で明らかになっています。潜在的な問題については過小評価し、全てが自分の思うように上手く行くような気がします。しかしながら、現実は違います。株価市場でも人間の楽観的性質が投資家やアナリストの行動に大きな影響を与えています。ネガティブサプライズがポジティブサプライズの3倍も大きいのは、良い例かもしれません。

本書では、1973年から1996年までの間に発生した5回の景気拡大と、4回の景気後退におけるアナリストの業績予想が、実績値とどのくらい乖離していたのかについて調査してあります。結果は以下の通りです。

  • 景気拡大局面: ポジティブサプライズは23.2%、ネガティブサプライズは79.1%、全体のサプライズ平均は44.9%
  • 景気後退局面: ポジティブサプライズは25.5%、ネガティブサプライズは77.4%、全体のサプライズ平均は47.4%
  • 調査期間全体: ポジティブサプライズは23.7%、ネガティブサプライズは76.5%、全体のサプライズ平均は44.3%
  • サプライズ=(実績値-アナリスト予想)/実績値

調査結果が示唆するものは、景気の波に関係なく常にアナリストの予想は楽観的だということと、上振れよりも下振れする強い傾向があることです。

アナリストが楽観的という点は、数多くの調査で明らかになっており、例えば、ジェニファー・フランシスとドナ・フィルブリックが918銘柄(1987年〜1989年)について行った調査によると、アナリストは年間平均で実績値よりも9%楽観的だったそうです。調査対象は、当時ウォールストリートでアナリストのコンセンサスに近い予想を出すことで知られていたValue Line Investment Survey。

また、I/B/E/Sという業績予想サービス最大手によれば、S&P500の銘柄で年始から年末まで平均で12.9%の業績予想の修正が入り、修正幅は最初の6カ月で6.3%、最後の6カ月で19.5%。つまり、楽観的なアナリストは、年前半ではバイアスがかかっていてなかなか業績予想を変えませんが、年後半に前半平均の3倍もの修正が急に入るといいうものです。

さらに、筆者とエリック・ラフキンの調査(1982年~1997年)では、アナリストはS&P500の利益の成長率を188%も過大に評価していたことが分かりました。年率にして実際は7.8%だった成長率を年初に21.9%と過大に見積っていたというものです。

これらの結果は、全体の統計値を歪める可能性のある一株当たり利益の絶対額が小さい企業(%ベースでの誤差が大きくなる)を除いた場合でも結果はあまり変わりませんでした。

また、業績予想の誤差は、景気サイクルの全ての段階で見られるもので、アナリストが景気の波を読み違えたものではないこともわかりました。

4.業績予想が間違っている理由

経済的、心理的理由があります。ジョン・クラッグとバートン・マルキエルは、投資の世界で名高い銀行、投資信託、投資助言会社が行った185社分の1年〜5年予想を調査しました。結果、アナリストの予想は、大抵の場合過去や現在のトレンドが将来続くという前提で作られているものの、精度が悪く、ざっくりと長期成長率4%を当てはめた方がまだマシということが分かりました。

また、オックスフォード大学のリトル教授のイギリス企業を対象にした調査によれば、多くの場合、直近のトレンドを基に将来の予測は出来ないことが分かりました。過去と将来の収益性に相関はなかったというものです。

同様の調査は多く存在しており、アメリカ企業を対象にしたものでも似たような結果が出ています。1945年から1964年までのアメリカ企業711社を対象にしたリチャード・ブレーリーの調査によれば、過去のトレンドは維持されず、寧ろ少しだけ反転の傾向が見られました。安定成長している会社は例外でしたが、それでも正の相関は限定的でした。

また、経営陣は会社の収益性が一貫して、徐々に改善しているよう見せるため、会計操作をしているというエビデンスが様々な研究者によって示されています。悪い時は、今まで溜まった膿みを敢えて全て出し切ろうとするため、数字が極端に悪化する傾向があります。本著ではハーバード大学の経済学者リチャード・ザックバウアーやボストン大学のジェイ・パテルとHEC経営大学院のフランシス・ディジョージの調査を扱っています。

5.以前は、アナリストのインセンティブが業績予想が当たらない原因の一つだった

当時、アナリストのボーナスを決める一番大きな要素は、業績予想の正確性や推奨した会社の株価のパフォーマンスではなく、証券会社のセールスの評価でした。セールスは稼いだ手数料をベースにアナリストのランキングを決めます。また、当時、アナリストにとっては、売推奨よりも買推奨を出した方がボーナスにプラスになる会社もありました。また、売推奨を出すと、会社に出禁や業界から総スカンを喰らう可能性もあったため、売推奨はなかなか出しづらい環境だったようです。下手したら自分のキャリアが終わってしまう危険性を冒してまで売推奨は出しづらいものです。

最近の日本の例でいうと、 2013年7月に三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荒木正人シニアアナリストが楽天から出入り禁止を食らったことが話題になりました。(楽天からのプレスリリースはコチラ。三菱UFJモルガン・スタンレー側の反論はコチラ。)

本書に戻ると、80年代後半にアナリストのジャニー・モントゴメリー・スコットが、ドナルド・トランプ現大統領が所有していたアトランティック・シティ・カジノに売推奨を出したところ、トランプは激怒し、アナリストの無知さを責め立てクビにするよう主張しました。程なくして、アナリストは他の理由で解雇になりました。その後、カジノは行き詰まってチャプター11申請することになりましたが。

また、プルデンシャル証券は、1992年にシティに対してネガティブなレポートを出しましたが、これが原因でプルデンシャルの投資銀行部門はシティ向け債券取引の主幹事から外されました。このアナリストは、別件でバンク・ワンの複雑なデリバティブの持分について批判をしていましたが、こちらもこれが原因でバンク・ワンとの債券取引が停止となってしましました。当該アナリストは、その後会社を去ることになりました。本書では、他にもソロモンブラザーズ、メリルリンチ、スミスバーニーなどが同様に主幹事から外された例が挙げられています。

こういったことが暗黙の圧力となり、買推奨の数は売推奨の数の5〜6倍になっているという調査結果が多く出ています。例えば、投資銀行のアナリスト250名のレポートを調査した結果、主幹事証券のアナリストレポートは、25%も買推奨が多く、売り推奨は46%も少ないことが知られています。

つまり、証券会社のアナリストはインセンティブ上、良いマーケターとして、良いストーリーを売り、手数料を稼ぐことが求められており、業績予想の正確性はあまり重要視されていなかったということです。さて、現在は如何でしょうか。

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