ROIC経営「日経新聞出版社」を読んでみた~所感その①

基礎が網羅されている良書で、バイサイドに興味のある方にとっては必読。日本の上場会社の取締役並びに役員の方々も、噛みしめて読むべき本だと思います。日本企業には、株主資本コストがゼロと勘違いされている方も多く見受けられるので、こういった考え方が浸透することを切に願います。本書の言葉を借りれば、PLばかりに目が行ったフロー経営ではなく、元手をいくら増やしたかという視点で、限られた経営資源を効率に使ってくださいということです。

外資系のバイサイドにいれば、本書の内容は実務で叩き込まれるので、新たに学べることはないものの、実務で学んだことをこういった本を読むことで整理するのはよいことだと思います。以下、気づいたことを述べていきます。

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オペレーティング・キャッシュと政策保有株の扱い

調達サイド(バランスシートの右側)と運用サイド(バランスシートの左側)のどちらをベースにROICを計算をするかは、どういう軸で会社を評価するか次第ですが、純粋に事業のクオリティを評価するのであれば、左側であるべきで、マネジメントの経営資源配分のクオリティも含めた資本提供者としての評価軸であれば、調達サイドからの視点も欠かせません。ということで、実務では当然のことながら両方の視点から評価します。

典型的な日本企業のバランスシートは肥大化しており(overcapitalized)、事業の質を評価するためには資産内容の精査が必要です。バランスシート上の現金や持ち合い株のうち、どれが事業資産で、どれが非事業資産であるかを判断することで、ROICやバリュエーションが大きく変わってきます。市販の本やテキスト、セルサイドのレポートなどでは、Operating cashや政策保有株式(本業に紐ついた投資有価証券)の扱いについて記載されてないものが多く、ROICの分母に足していなかったり、全額を株主に帰属する非事業資産として処理していることがあります。現金や投資有価証券の事業資産か非事業資産かの区分けで、運用サイドから見たROICのみならず、バリュエーションも大きく変わることがあるので、この点は重要です。運用サイドベースのROICの分母には、Operating cashや売却可能性のほぼない政策保有株は、事業に必要な資産ということで足すべきですが、本書にはそういった部分の深堀はありません。

例えば、豊田自動織機が保有しているトヨタの株式は、売却の可能性のほぼない事業資産的な性格を帯びているためROICの分母に含めるべきです (※東証の再編絡みの話で、豊田紡織が持ち合い株を売却したという話があるので、将来は変わってくるかもしれませんが、現状は保守的に大規模な売却を前提としていません)。つまり、政策保有株を前提とした事業のリターンを計算する際は、政策保有株を事業資産とみなし、分母に足し合わせるべきということです。工場や土地と同じ事業資産という扱いです。また、バランスシートの現金のうち、Operating CashもROICの分母に含めるべきです。マーケットではこの辺の処理が雑な人が多く、例えばDCFのバリュエーションでキャッシュや政策保有株の全額を非事業資産として株主価値に算入しているアナリストをよく見かけるので、注意が必要です。適切な処理をしていないと、バリュエーションが高くなりすぎてしまい、株価が安く見えてしまいます。実現の可能性がない価値は、蜃気楼みたいなものですので、ベースのバリュエーションに含めるのは不適切でしょう。

ただし、経営陣が政策保有株の売却について明言をし、実際にアクションを取っている場合、株主として支配権を握ることができる場合、アクティビストとして経営陣にプレッシャーをかけ、会社のバランスシートを改善させることができるという自信がある場合は、政策保有株やオペレーティングキャッシュの前提が変わってきます。つまり、これらの政策保有株や一部のオペレーティングキャッシュは、非事業資産として現実的に株主に帰属する価値となります。

ROIC改善アプローチ

機関投資家のエンゲージメントのトピックが挙げられています。短期的には、低収益事業・資産の処理、製造拠点や設備の集約化・効率化、関係会社の整理など、企業の贅肉をそぎ落とす性格のもの、中長期的には社内にROIC経営、資本効率の意識を浸透させ、事業ポートフォリオマネジメント、業績評価、目標設定などの仕組みを再構築し、役員・従業員の教育も行うことで、筋肉質な体質を維持強化するというもの。

不採算事業を手遅れになるまで放置する日本企業は多いです。しかしながら、経営資源をいつまでも振り当てられないノンコア事業という扱いでゾンビのように存続するのは、株主だけではなく従業員や他のステークホルダーのためになると思えません。売却やスピンアウトなどにより、ベストオーナーの元で積極的にリソースの配分を受けた方が、中長期な企業価値が向上を通じ、様々なステークホルダーのためになるでしょう。

一方、短期的なROICを重要指標にしてしまうと、初期投資が嵩むような新規事業に投資をしづらくなり、縮小均衡に陥ってしまうリスクがあります。また、成長事業にROICの改善を求めると、成長の足かせになる可能性もあるため、ROICの運用は中長期的なものにし、成長性など他のKPIとも併用することで欠点を補う必要があります。

なお、ROICは会計ベースで資本生産性を評価するもので、キャッシュベースではありません。NPVやIRRはキャッシュベースの評価で投資判断に使われますが、継続事業の資本生産性をキャッシュベースで評価することが難しいため、会計数値ベースのROICが使われます。

ROIC逆ツリー

本書で紹介されているオムロンのROIC逆ツリー展開では、現場の改善活動の成果が集約された結果として、経営目標であるROICの改善が達成されるというイメージが見える化されており、現場と経営の目標を連携させています(※詳しくはオムロンのHPをご覧ください)。

これによってマネジメントは、企業価値を向上させるためのバリュードライバーをより鮮明に理解することができ、現場では改善活動はもちろんのこと、視野の向上と全体最適への視点を持った判断へのシフトが期待できます。

また、現場など財務や戦略部門以外の従業員もROIC改善のために各自に必要な行動をイメージできるように、同社では以下ROIC翻訳式を設けており、ROICの運用例として非常に興味深い内容となっています。

ROIC=お客様の価値↑↑(社内の後工程を含む)/(必要な経営資源↑)+滞留している経営資源↓)

その②に続く

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