「両利きの経営」を読んでみた~ざっくりとメモ

企業経営において、競争環境の劇的な変化に対応していくためには、既存事業の深化と新規事業の探索の二兎を追う両利きの経営が必要で、これら相反する2つの事業を両立させるためには、経営資源の再配分や組織変革を行うための経営トップの強烈なリーダーシップが肝になるというお話。

両利き経営は、安定した収益を担保するための成熟事業の「深化」と、変化に対応するための新規事業の「探索」という活動がバランスよく高い次元で取れていること忍び寄る破壊的イノベーションに対して、一度ならず何度でも、後手に回らずに的確に対応するためには、明確に異なる2つのゲームを同時に行うことが求められます。

既存のルールが変わってしまうような破壊的イノベーションが業界の外から起こった際に、何十年もかけて築き上げてきた、それまで盤石と思われた事業基盤が、いとも簡単に崩れ去っていくことがあります。簡単に思い浮かぶのは、アナログ写真や書籍のデジタル化、映画や音楽配信のオンライン化など。よく語られる例では、長らく世界最大の携帯端末メーカーだったノキア。同社は、エリクソン、サムスン、モトローラなどの既存のプレーヤーの動向を気にしていたものの、携帯電話業界の外から参入してきたアップルのiPhoneやグーグルのアンドロイドがどこまで既存の秩序を破壊してくるか予想だにしておらず、スマホ市場で敗れ去ってしまいました。

そうならないためにも、リーダーは、既存の資産や組織能力を深化し、成熟事業で競争しながらも、既存の資産と組織能力を活用して競争優位となりうる市場で新規事業を探索して、未来の市場に備えるべきです。特に、既存の成熟業界を様変わりさせる技術的な可能性があるとき、技術の動乱期にこそ、新規事業の探索と企業刷新を行う必要があります

しかしながら、言うは易し。イノベーションのジレンマがあり、既存事業と新規事業を両立することは並大抵のことではありません。人間や企業というものは、成功体験があると、既存事業に疑念を持つことがなくなり、その世界から抜け出せなくなります。結局、成功しているほど、既存事業の深化に隔たってしまい、結局はイノベーションが起こらなくなるという、繁栄のパラドックスが生じます。既存の有力企業が、合理的に行動した結果としてイノベーションに対応が出来なくなります。

残念なのは、不連続な変化に対応しきれず、負け組になってしまった会社でも、必ずと言っていいほど成功につながる新技術などを保有していたということです。もったいないことに、足元に転がっている資産に価値を見出し、有効活用することができるような状況、組織を作れなかったために、取り残された企業は敗北していきました。

失敗する組織は、たいてい過度に管理され、リーダーシップが発揮されていない状況で、現状を不安定にさせるような実験を資源の無駄遣いとして避け、既存事業の維持改善に注力する傾向にあります。大企業にあるあるですが、既存の成熟事業で頑張ってきた人たちは、特に低収益事業に不確実な成長機会があるからと言って、これまでに築き上げてきたものを変えたがりません。

本書では、こうならないためには、トップマネジメントのリーダーシップが大事であると説いており、具体的にリーダーに求められる役割や組織構造についての豊富な事例、そこから見いだせる共通点などが述べられています。

いくつもの成功例や失敗例が記載されており、勉強になります。例えば、アマゾンの話。ベゾス氏曰く、彼の役割は、イノベーションの文化を構築することで、以下のように既存事業の深化と新規事業の探索を両立させてきました。オンライン書籍販売→商品ラインナップの拡大、自社製品の販売→他の小売業者向けのオンライン売り場、物販→フルフィルメントセンター、流通サービス→クラウドコンピューティング、動画配信、コンテンツ制作など。

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1.成熟事業の「深化」と新規事業の「探索」

成熟事業と新規事業では、求められる要件が全く異なります。成熟事業では、出来上がった歯車を回すこと、或いは列車を定時運行させることが求められる一方で、新規事業では、事業を適切な方向に確実に向かわせるためのリーダーシップが鍵になります。

成熟事業での「深化」では、効率化やコスト削減など漸進型の改善が成功への秘訣で、標準化されたプロセスが存在します。組織統制でいえば、同質的で連続性を持ったもの。

一方、新規事業の「探索」は、実験と行動を通じた大きな飛躍を狙うもので、成長、スピード、自発性、柔軟性、ミスへの耐性、適応力などが求められます。このような環境では、多様性と非連続性を前提とした組織体と相性が合います。

新規事業の「探索」では、こういった要件を好む人材を採用して、フラットで高速に学習する組織を作ります。ここでは、成長、顧客獲得、顧客維持、直帰率など事業拡大を示す指標を評価軸にし、機敏さや実験を重視する文化を醸成することが肝になるため、成熟した組織で重要な利益率や標準化されたプロセスなどは弊害になります。従業員が柔軟で、主体的に機会をすぐに生かし、それほど緻密な予測にこだわらない方が上手くいきます。

2.リーダーの役割

両利き経営には、劇的な環境変化に合わせて動的に、自社の様々な強み・リソースを再構築し、組み合わせ続ける能力「ダイナミック・ケイパビリティ」が求められ、これには強烈なリーダーシップが必要です。ただ誰かを新規事業に送り込むだけではなく、リーダーが個人的に積極的に関与することが求められます。

A. 既存事業と新規事業にまたがって共通のアイデンティティをもたらすビジョンを示し、価値観、文化を醸成する

既存事業と新規事業のメンバー両方を巻き込み、同じチームの仲間だという意識を持たせるためのもの。アマゾンのベゾスによれば、起業家精神を持ちつつ、大きな事業を運営する鍵は、企業文化の重要性を旗印にすること。アマゾンの共通の文化規範は、あくなき顧客重視、実験への積極性、倹約、政治的な行動をしない、長期展望など。これが、ユニットにまたがって、社内の人々を結束させる秘訣です。また、既存事業と新規事業を共存させるためには、矛盾する探索事業と既存事業がともに繁栄するよう、感情に訴えかける包括的な戦略的抱負、基本的価値観を示して、幹部チームを巻き込むことも必要です。

B. 探索と深化が必要であることを正当化する明確な戦略的な意図を示す

リーダは、探索ユニットが競争優位を築くために利用可能な組織能力や資産を明確にすることが求められます。対応可能な市場規模、顧客にどのような価値提案をするのかなどのビジョンを自ら示すすともに、持続可能で差別化できる製品やサービス、市場の先行きのヒントとなるライトハウス・カスタマー候補の選定などの戦略も考え、どのようなロードマップで解決を図るか、ビジネスモデルはどうするのか、5年間の損益計画はどうなるのか、事業のリーダーとなる経営幹部は誰か、どのように事業資金を手当てするのか、戦略を実行するための営業部隊をどうするのか、ライトハウスカスタマーを支援するプロセスがあるかなどにも積極的に関与していきます。

C. リソースが不足しがちな新規事業に必要な経営資源が投入されるよう強力にサポートすること

リソースが不足しがちな新規事業の「探索」に、既存事業から必要な経営資源(営業チャネル、製造、技術的資産、ブランドなど)が提供されるように、会社のトップが積極的関与します。こうすることで、社内ベンチャーは、新参者の競合他社が持っていない成熟事業における既存の資産や組織能力を有効活用することができ、競合他社に比較しても有利な立場でスタートを切ることができます。

D. 新規事業と成熟事業の間のインターフェースを管理して、必ず起こる対立を解決すること

既存事業の「深化」と新規事業の「探索」では、人材、指標、報酬体系、インセンティブ、文化が正反対で、求められる組織能力が根本的に異なるために、トップマネジメントのリーダーシップがないと、新規事業は既存事業のお荷物ととらえられるだけで上手くいきません。たいていの場合、成熟事業が幅を利かせ、スタートアップは不利益を被ります。既存事業は、現在の事業に忙殺され、ビジネスモデルの変更が求められる探索の必要を感じていないことが多いため、経営陣に肩入れしてもらわないと、新しいベンチャーはすぐに見落とされ、経営資源に窮することになりかねなりません。従い、新しいベンチャーの育成と資金供給に経営陣が関与し、監督し、その芽を摘もうとする人々から保護することが肝になります。

また、既存事業と新規事業の幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図るためには、どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定し、幹部には、既存事業と未来志向の探索活動との間の葛藤を理解させ、認めさせなければなりません。そのため、リーダーには、探索事業や深化事業についての議論や意思決定の実践に多くの時間を割くことが求められます。

E. 「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する

両利きの経営のリーダーは、あるユニットには利益と規律を求めながら、別のユニットには実験を推奨します。また、一方の事業では戦略を支援しながら、他方の事業ではカニバライゼーションを追及させます。時間軸や優先順位において矛盾をはらみつつ探索と深化の戦略を実行することになります。

3.両利きの組織構造

両利きの組織を構築するために、まずは幹部チームの構成を見直します。人間は過去に囚われる傾向があるので、必要に応じてメンバーを入れ替えます。

両利き経営では、新規事業を構造上分離させることが鍵になります。深化型の既存事業から十分な距離を置くことで、一連のイノベーションが起こりやすくするためです。探索ユニットを大組織から分離することで(例:本社組織から物理的に切り離すこ)、古いマインドセットから生じる惰性、熱量の低下を防止します。また、成熟事業に干渉されないように、必要な人材、報酬体系、文化も独自に調整できるようにします。そうしないと、例えば、人事プロセス、ITシステム、財務報告などについて既存事業から妥協を求められて、面倒な業務が増えることで探索ユニットの重石になるかもしれません。

同時に、新規事業が既存事業が持つ資産や組織能力を有効活用できるように、インターフェースも注意深く設計することで、分離と統合を両立させます。例えば、重要な接点である経営上層部、上級マネージャーの報酬体系を、「深化」と「探索」が運命共同体となるようなものにすることで上手く統合を図ります。具体的には、CEOや事業ユニットのリーダーが探索と組織のリーダーを分けて管理する形式と、幹部チームが一緒になって既存事業と新規事業との間の妥協や、資源配分選択をするチーム重視の方式があります。チーム重視のやり方では、事業ユニットのリーダーが鍵となります。幹部チームの報酬は、長期的な成長ドライバーに明確に焦点を合わせたもので、個々の担当事業の損益ではなく、全社の業績に基づいたものにします。こうすることで、どんな問題でもオープンに議論されるようにします。

無論、どの時点で探索ユニットを打ち切るか、或いは、組織に再編入するかに関する明確な判断基準も決めておかなくてはなりません。

なお、機能横断型チームプロジェクトチームでは上手くいかないようです。

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